睡眠学研究レポート

大切な人を失ったとき…悲嘆のプロセスを経て人は歩き出せる【専門家コラム】

大切な人との「お別れ」の後、人の心はどう移り変わっていくの?

長い人生において、パートナーや親、子どもなどの大切な人を失う瞬間は、誰の身の上にも必ず訪れます。昨日までは当たり前のように隣にあった笑顔が、明日にはもう見られない…。

そんな悲しい出来事には、誰しも直面したくないものです。でも「お別れ」が訪れてしまったとき…、その後私たちの心はどのように変化していくのでしょう。

大切な人を失ったとき…悲嘆のプロセスを経て人は歩き出せる【専門家コラム】

 

大切な対象を失った人の心の移り変わりを「モーニング」(喪、悲嘆、悲哀など)と呼びます。イギリスの精神分析学者ボウルビーは、乳幼児の研究を通じてモーニングという心理プロセスが次のような経過で進むと説明しました。

 

「モーニング」の過程をゆっくり進むことで、人は悲しみから離脱する

まず大切な人を失った数日間は、無感動、無感覚の状態になります。その後、大切な対象を喪失したという事実に対して、どうしようもない悲しみや不安や後悔の念が高まり、居ても立ってもいられないような情緒的混乱の状態が続きます。

こうした日々が続いた後、喪失に対して「抗議」をする時期が訪れます。「なぜこんなことが生じたのか」「こんなことが起きてよいはずがない」という悔しさがにじみだし、やりきれない思いにさいなまれます。

 

しかし、抗議をしても変わらない事実を受け止めざるを得なくなると、強い抑うつ感に襲われます。誰とも会いたくない、一人で自宅に引きこもっていたいと感じる人もいます。この段階は、精神的疲労感が湧き出しやすい時期であり、心理的な危機に直面する段階です。

したがって、周囲の人はこの時期の異変に早めに気付いていく必要があります。

 

こうした悲嘆のプロセスを経ることによって、失った対象に対する悲しみや執着から徐々に立ち直り、やがて心の安定を取り戻すことができるようになります。このプロセスをゆっくりたどっていくことによって、悲しみを乗り越え、新たな人生の構築へと意識が向かっていくようになるのです。

 

頑張りすぎることで置き去りになる「心の悲しみ」

このモーニングの期間の長短は、人によってさまざまです。期間の長短が、失った人への情の深さと一致するわけでもありません。

モーニングの期間を過ごすうえでとても大切なことは、「早く明るい自分を取り戻さなければ」「いつまでも周りを心配させてはならない」と気張りすぎないことです。

 

大切な人を失うことは、自分の魂の半分をえぐり取られるほどの体験です。この体験により、心の中では胸が張り裂ける痛みを味わい、苦しみを感じています。

そうした心の痛み、悲しみ、苦しみを癒すことを忘れ、周囲のために、あるいは自分を鼓舞するために頑張りすぎてしまうと、心の傷はいつまでも残り続けてしまいます。

 

素直な感情とゆっくり向き合う時間が大切になる

大切な人を失うと、その痛み、悲しみ、苦しみは、しばらくの間、ずっと自分の心の中に残り続けます。それはとても自然なことなのです。

1日中やるべきことに追われ、慌ただしさの中で過ごしていても、ふと一人になった時に湧き出す悲しみや、押し寄せる胸の痛みの感情に気付き、その感情をいたわる時間を持ちましょう。

悲嘆にくれる自分を叱咤し、鼓舞し続けることで、心の中にある悲しみの気持ちが未消化のままくすぶり続け、不眠などの症状に悩まされる方は少なくありません。こうした状態が続くことにより、いつか生きる気力を失ってしまうかもしれません。

 

したがって、悲しみの感情があふれてきたときには、それを無理に止めようとしなくてもいいのです。湧き出す感情を認め、その感情を表したいときに表現することが心の傷を浄化させるためには必要です。

すると深い眠りを得られ、心の疲れも癒すことができるでしょう。

 

周囲の人ができる「本当に力になるサポート」とは?

また、このような喪失感に暮れる方の周囲にいる人々は、どのように接するとよいのでしょう?

「早く立ち直るべき」「笑顔を見せて」というように彼らの気持ちに無理を強いることや、「言葉に出してごらん」というように無理に感情を表現させるように促したりしないことが大切です。

また、元気づける言葉をかけたり、気晴らしや気分転換のために何かを勧めたりしても、多くの場合は当人の気持ちからずれてしまい、その言葉や配慮が思いがけず傷つけたり、ストレスを増やしたりしてしまったりすることがあります。

 

大切なことは、こうした方々の気持ちに寄り添うことです。その方の負担にならない位置で近くにいてあげて、「いつでも話を聞くし、どんなことでもよかったら相談してほしい」と伝えることが、よい「寄り添い」になると思います。

そして、その人が今現在、手の付けられないこと、やるべきことでも進められないことをできる範囲で手伝ってあげること。これも大きな助けになります。

「大切な人」を失う瞬間は、誰の人生にでも訪れます。だからこそ、お互いがその時々に当事者の気持ちを思いやり、支えあっていくことが大切なのだと思います。

 

photo:Getty Images

大美賀 直子

執筆

精神保健福祉士・産業カウンセラー・キャリアコンサルタント

大美賀 直子

早稲田大学教育学部を卒業後、出版社やIT関連企業に在籍し心身の健康等の編集の仕事に携わり、独立。メンタル領域専門のコラムニストとして、ストレスや心の健康、対人関係、モチベーション等に関する執筆活動、講演活動を行う。同時に心理カウンセラー、研修講師としても活動し、メンタルヘルス支援企業「(株)ハートセラピー」に所属。法人向け研修、労働者や大学生へのカウンセリングを行っている。雑誌・新聞等メディアへの出演も多く、著書多数。『長女はなぜ「母の呪文」を消せないのか』(さくら舎)、『なぜあの人の働き方は「強くて美しい」のか?』(明日香出版社)などの書籍を出版している。

(株)ハートセラピー
Site: http://www.heart-t.co.jp/

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