睡眠学研究レポート

企業は「時間の管理」だけではなく「集中力の管理」も、そろそろ真剣に考える必要がある。

知識労働においては「時間の管理」は特に重要なスキルの一つだ。

 

知識労働という言葉を作ったピーター・ドラッカーが、「成果をあげるには時間からスタートせよ」と説いたように、 時間がなければ何事も成し得ない。

なぜなら、仕事が高度になればなるほど「非定型業務」が増えるからだ。 非定型の業務は「仕事のやり方」そのものを毎回設計し直す必要が有るため、どうしても試行回数が増える。

つまり「トライ・アンド・エラー」が必然である。したがって、知識労働はいかに成果につながらない仕事をしている時間を減らし、成果に繋がる仕事をしている時間をふやすかという技術、すなわち時間管理が極めて重要になる。

 

では時間管理を徹底し、時間に余裕ができれば良い仕事ができるのだろうか。これは、多くの人が感じる直感に反するだろう。実際には「時間の有無」だけが成果の有無を決定するわけではない。

 

「時間があったはずなのに、集中して仕事に取り組めず、ダラダラ時間を使ってしまった」

「午前中の仕事は一生懸命できたが、午後はなんとなく気分が乗らず、何もできなかった」

 

そんな経験はいくらでもあるのではないだろうか。

なぜ時間があっても、仕事の成果が出ないのだろうか。

 

私の観察では、その大きな原因の1つが、企業も個人も「集中力の管理」を軽視している点だ。

仕事をしていれば当たり前のように感じる事なのだが「集中力」は時間と同じくらい重要な資源である。 無駄に使えば枯渇する。 いくら時間があっても、集中力がなければ仕事をやり遂げることはできない。

例えば、昼食後に眠い目をこすりながら仕事に一生懸命取り組んでも、 眠気と戦うことが精一杯で、ほとんど何もできない、という経験をした方は多いだろう。

究極的には やり遂げる力 = 投入した時間 ✕ 集中力 なのである。 したがって、集中力は厳密な意味で「資源として管理」する必要がある。

 

そして、集中力という貴重な資源を枯渇させないために重要な位置を占めるのが「睡眠」だ。

 

私の知るあるIT企業では月に30時間以上の残業を厳しく制限していた。理由を聞くと、「過剰な労働はミスにつながるから」という。技術者に対して、パイロットなどと同じ扱いをしているのだ。

実際、残業時間を制限していなかった頃は設計やテストにおいて頻発していたミスが、残業時間を制限するようになるとかなり改善されたという。

 

社員の中には「以前は9時、10時まで会社に残っていました。家に帰って、風呂に入り、ちょっとくつろいでいるとすぐに夜中の1時、2時になり、翌朝まで5時間程度の睡眠しか取れませんでした。その頃に比べると、かなり作業効率はあがっていると感じます」
という方もいた。

 

実際、睡眠時間が不足していると、著しく作業効率が落ちることが知られている。厚生労働省の検討会において、以下の報告書がまとめられている。

 

“睡眠不足は,疲労や心身の健康リスクを上げるだけでなく、作業能率を低下させ、生産性の低下、事故やヒューマンエラーの危険性を高める可能性がある。健康成人を対象にした研究では、人間が十分に覚醒して作業を行うことが可能なのは起床後 12~13 時間が限界であり、起床後 15 時間以上では酒気帯び運転と同じ程度の作業能率、起床後 17 時間を過ぎると飲酒運転と同じ作業能率まで低下することが示されている。”

 

睡眠不足が連日続くと、作業能率はさらに低下する可能性がある。

健康な成人を対象にした介入研究では、自然に目が覚めるまでの十分な睡眠時間が確保されると、作業能率は安定しているが、その時間よりも睡眠時間が短く制限されると、作業能率は日が経つにつれ低下していくことが示されている。

また、これらの研究では、客観的な検査では作業能率が低下しているにも関わらず、自分ではそれほど強い眠気を感じていない場合が多いことも示されている。
(出典:健康づくりのための睡眠指針の改定に関する検討会報告書

 

だが、もちろん仕事が忙しい時もある。必ずしも定時に毎日帰れるわけではない。そんな時に有効なのが「仮眠」である。上述した厚生労働省の報告書も、仮眠が作業の効率を向上させる可能性を指摘している。

 

“毎日十分な睡眠をとることが基本ではあるが、仕事や生活上の都合で、夜間に必要な睡眠時間を確保できなかった場合には、昼間の仮眠が、その後の覚醒レベルを上げ作業能率の改善を図ることに役立つ可能性がある
(出典:健康づくりのための睡眠指針の改定に関する検討会報告書)”

 

こういった研究を受けて最近では、仮眠を推奨する会社が増えてきており、有名どころでは、Googleやザッポス、ナイキなどの会社も仮眠を推奨している。

 

“[仕事術]仕事中の昼寝は生産性を上げる

昔は、仕事中に昼寝をすると解雇されるか、少なくとも厳重な懲戒処分を受けたことでしょう。しかし、現代の職場ではそうとも限りません。

米国では昼寝をほんの26分するだけで、業績が34%も上がり、集中力は54%も高まるという研究結果を受けて、 雇用者の多くが従業員に十分休息をとってもらいたいと思うようになり、職場に昼寝指定スペースを設けました。(財経新聞)”

 

労働者の睡眠時間を十分に確保することが、品質管理上、作業効率上も極めて重要であることは、あらゆるデータから確実といえよう。

 

知識労働者を数多く擁するこれからの企業は、「夜中まで飲み会をやる」「長時間労働をさせる」など、「睡眠」を阻害するような行為を厳しく制限するべきなのだろう、と感じる。

 

Thinkstock / Getty Images

安達 裕哉

執筆

安達 裕哉

1975年、東京都生まれ。Deloitteにて12年間コンサルティングに従事。大企業、中小企業あわせて1社以上に訪問し、8人以上のビジネスパーソンとともに仕事をする。現在はコンサルティング活動を行う傍らで、仕事、マネジメントに関するメディア『Books&Apps』を運営し、月間PV数は15万を超える。

ティネクト株式会社 代表取締役

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