なかなか寝つけない、眠りが浅い…。そんな不眠の悩みを抱える人にぜひ知ってほしいのが、睡眠と運動の関係です。
早稲田大学スポーツ科学学術院教授・内田直先生によると、「日常的に運動習慣がある人は、ない人に比べより深い睡眠を得ることができる」といいます。
さらに、深い睡眠は運動をはじめ日常のパフォーマンス全般を向上させるという相互関係にあるのだとか!
運動習慣をもてば、睡眠は若返る!?
内田先生の研究によると、多くの実験結果から、「これまで運動習慣がなかった人が運動をはじめると、寝つきがよくなる、中途覚醒が減るなど、睡眠の質が向上することが明らかになっている」といいます。
ただし、そう聞いて「よーし、今日の夜はぐっすり眠りたいから、普段はしない運動をするぞ!」と張り切っても、あまり効果はないのだそう。
「一過性の運動だと、必ずしもその日の夜に十分眠れるとは限りません。あくまでも『習慣的な運動』というのが大事なのです」
また、運動するタイミングによっても睡眠への効果は変わってくるといいます。
「1966年に大学生のアスリートを対象に、『午後の運動をした日』、『夜の運動をした日』、『運動なしの日』の3つの行動パターンで夜の睡眠の深さを調べる調査が行われました。
その結果、『午後に運動をした日』が最も深い睡眠を多く得ることができたという結果が出ています」
これらの研究結果から、内田先生は以下の3つの考察を示しています。
(1) 運動をすると深い睡眠が増える。ただし、その効果は『午後に運動した日』が最も大きく、運動のタイミングによってはあまり大きな効果が見られないこともある。
(2) 睡眠直前の運動は、身体的なストレスによって覚醒レベルが上がってしまう。そのために寝つきが悪くなることも。
(3) 運動習慣のある人の睡眠は、ない人に比べて深い睡眠が多い。
「特に、年をとると深い睡眠が少なくなってしまいます。ところが、運動習慣があると睡眠が“若返り”、若いころのような深い睡眠をとることができるようになるのです」
睡眠が日中のパフォーマンスを向上させる!
運動習慣が睡眠の質を向上させると同時に、睡眠は、スポーツはもちろん日常のパフォーマンスを高めるという相互関係にあるそう。
内田先生は、「睡眠をとらないと、せっかくトレーニングしてもその成果が生きてこない」といいます。
「睡眠によって、日中に会得した技術や技能がより効率的に自分の中で定着する。そのため近年はスポーツ科学の研究ではそのことがとても重視されています」
アメリカの研究者シェリー・マーが行った実験によると、大学のバスケットボール選手に毎日10時間寝るように指示したところ、走る速度、シュートの精度など、すべての点でパフォーマンスが上がったという結果が出ました。
「実験によれば、パフォーマンスは10日間にわたってどんどん上がっていきました。つまり長く寝ることを続けるほど、本来持っている能力が十分発揮され、競技力が向上する、と言えるのです」
その理論は、アスリートだけでなく、私たちにもあてはまるといいます。
「忙しい現代人の多くが、睡眠不足の状態。中には、土日は少し長く寝て睡眠不足を補うという生活をしている人も多いのではないでしょうか。
しかし、1週間に2日長く寝るだけでは本来の力を発揮できない。ウィークデーもウィークエンドもしっかり寝て、はじめて日中の覚醒が十分になるのです。
日中のパフォーマンスを上げるためにも、私たちは普段から睡眠時間に気を配ることが大事。
そして夜にしっかり寝て、昼間に思いっきり活動するためにも、習慣的な運動は効果的といえそうです。
※このお話は、9月6日の「秋の『すいみんの日』市民公開講座2015 東京」(公益財団法人 精神・神経科学振興財団 睡眠健康推進機構 主催)で行われた内田直先生の講座「運動をして、よく眠ろう!」から抜粋し、紹介しています。
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