「記憶力を上げたいけれど、具体的に何をしたらいいのか分からない」という人もいるでしょう。
今回は、記憶力を高めるためのトレーニングや生活習慣について、脳内科医、加藤プラチナクリニック院長の加藤俊徳先生にお話を伺いました。
記憶力向上のために知っておきたい自分の記憶タイプ

性格に個性があると同様に、脳にもそれぞれの個性があります。
脳が司る記憶にも「本人が何を介して記憶するのが得意なのか」という観点から3つのタイプに大別することができ、そのタイプによって人それぞれに「記憶することが得意な物事」があります。
そのため、記憶力を鍛えるには、まずは自分がどの記憶タイプが得意なのかを知ることから始めましょう。
言語系記憶
教科書の内容を暗記したり、授業や会話の内容を覚えたりなど、文字や言葉から物事を記憶するタイプです。
「言語系記憶が得意な人は、読んだ本や見た映画の内容を自分の中で言語化することで物事を記憶します。
このタイプに属する人は、読み書きした内容を覚えたり、話を聞いたりといったことが得意です。
子どもであれば、テストの点数も優秀な傾向にあります」(加藤先生)
視覚系記憶
目で見たものを、そのまま覚えて記憶するタイプです。
「視覚系記憶が得意な人は、目から入ってくる情報を、そのまま記憶する能力に長けています。映画のシーンや町の地図などを、そのまま記憶できる人もいます。
視覚情報から物事を理解・分析する能力に長けているので、絵画などの創作活動、美術品や骨董品の目利きなどが得意な人も多いでしょう」(加藤先生)
運動系記憶
物事を、身体の動きと関連付けて記憶するタイプです。
「ダンスや料理など、身体を動かしながら記憶することが得意なタイプです。
このタイプの人は、スポーツが得意だったり、手先が器用だったりする傾向が強いとされています」(加藤先生)
記憶力診断│記憶タイプのチェックリスト
前述した3つのタイプの中で、自分がどのタイプに当てはまるのか、次のチェックリストで診断してみましょう。
各タイプにつき20の質問があります。
「はい(5点)」「いいえ(1点)」「どちらでもない(3点)」で答え、合計点が最も高いものが、あなたの記憶タイプです。
最も点数が低いものが、不得意とする記憶タイプとなります。
出典:『楽しく簡単に脳が冴えわたる! 記憶力の鍛え方』加藤俊徳(宝島社)
言語系記憶のチェックリスト
- よく口が立つといわれる
- 子どもの頃、会話やごっこ遊びが好きだった
- 映画のセリフやストーリーをよく覚えている
- レストランでは料理の説明でメニューを選ぶ
- 筋道立てて話をすることができる
- 待ちあわせ場所には時間よりも早く行く
- 「角から2件目」などの言葉を使って道を説明できる
- ウソをつくのがうまい
- 新しい機器を買うと、まず説明書を読む
- 人の相談に乗ることが多い
- メールを打つのが好き
- 趣味は読書
- よく長電話をしてしまう
- 服は着る順番を決めてから着る
- あまり忘れものをしない
- 整理整頓が好き
- 図書館に行くのが好き
- 知りあいにアドバイスすることが多い
- 叱る時は理由を説明する
- 落語や漫才が好き
視覚系記憶のチェックリスト
- 人に責められると黙ってしまう
- 学生時代、テストの成績はあまりよくなかった
- 図鑑や絵本を見るのが好き
- 映画を観ると、場面や風景が印象に残る
- 動物園や水族館が好き
- 電話やメールは好きではない
- 家に帰る時に、よく寄り道をする
- 漫才よりもコントが好き
- ウソを直感で見抜くことがよくある
- 怒ると感情的になってしまう
- 話をすると、別の方向にそれることがよくある
- 電車に乗るとよく外の風景を眺める
- ノートの罫線を無視して字を書く
- 新しい機器を買うと、とりあえず使ってみる
- 部屋や机の上が散らかっていることが多い
- 1度決めると、他人の意見をあまり聞かない
- 服や持ちものは値段よりもデザイン重視
- 会話は筋道を立てるよりも、思いついたことをしゃべっていく
- 道案内をする時は「あっちのほう」と感覚的な説明になってしまう
- 空想にふけることがよくある
運動系記憶のチェックリスト
- パソコン、裁縫、工芸など指をよく使う習慣がある
- 左右どちらでも片手で服のボタンをかけたり、外したりできる
- 1日7000歩以上歩く
- 階段では手すりを使わずに上り下りできる
- 靴を立ったまま履くことができる
- 目を開けた状態で、片足で40秒以上立っていられる
- 身長の1.5倍の長さを2歩で歩くことができる
- かたい食べ物をよく食べる
- カラオケで歌うことが好き
- 毎日続けている日課がある
- 毎年1〜2回以上旅行に行く
- 友だちと、最近の時事的な話をすることがある
- この1年の間に新しいことを始めたり、新しい場所に行ったりしたことがある
- 自分なりの健康法を実践している
- 家庭菜園、ガーデニングなど、屋外で活動する機会が多い
- 関節や筋肉が痛くなったらきちんとケアしている
- 楽器の演奏が得意
- 両利きである
- 初めてのスポーツでもとりあえずうまくこなせる
- 絵を描くのが得意
記憶力を上げるには、「自分の記憶タイプ」と、「覚えたい物事がどのタイプの記憶に適しているか」を知ることが大切です。
上記のチェックリストで自分の記憶タイプ、自分が不得意なタイプがわかったところで、記憶力を上げるための具体的なトレーニングを行っていきましょう。
記憶力を上げるトレーニング

脳の個性は、生まれつきのものだけでなく、それまでの生活習慣から大きな影響を受けています。
そのため、生活習慣やトレーニング次第で、得意な記憶タイプが変わることもあります。
つまり、自分が覚えたい物事に適したトレーニングを行うことで、記憶力を上げることも可能になるのです。
記憶力をアップさせるタイプ別トレーニング
言語系記憶、視覚系記憶、運動系記憶、それぞれの記憶力を鍛えるための簡単なトレーニングを紹介します。
言語系記憶の記憶力を上げるトレーニング
言語系記憶に適した記憶力のトレーニングには、新しい言葉を学ぶことが効果的です。
「知らない言葉と出会ったら、その場でメモし、インターネットで検索したり、辞書をひいたりして意味を確かめてください。インターネットで調べた意味と、辞書でひいた意味を比べてみるのもよいでしょう。
これを繰り返すうちに、『言語系の脳番地(言語系を処理する脳の中のエリア)』が鍛えられて、言語系記憶の能力が上がります」(加藤先生)
視覚系記憶の記憶力を上げるトレーニング
視覚系記憶に適した記憶力のトレーニングには、周囲の景色など、視覚から得られる情報に対して、課題を持って見ることを意識しましょう。
「毎日の通勤・通学中などに、何かひとつ対象を決めて、それを探しながら歩いてみてください。
美容院・歯医者・赤い車など対象を決め、周囲を注意深く見ることを意識すると、脳の中で『視覚系脳番地』が刺激され、視覚系記憶の能力が鍛えられます」(加藤先生)
運動系記憶の記憶力を上げるトレーニング
運動系記憶に適した記憶力のトレーニングは、いつもと異なる運動が効果的だといいます。
「『運動系記憶をつかさどっている脳番地』は、記憶の中枢ともいわれる海馬と特に密接に連動して働いています。
そのため、運動系記憶を鍛えることは、全体的な記憶力アップにもつながります。トレーニング方法として簡単なのは、利き手と反対の手を使って生活してみることです。
歯磨きやぞうきんがけなどの簡単な動作で十分です。いつもと異なる動きをすることで、運動系脳番地が刺激されます」(加藤先生)
記憶力をさらにアップさせる方法
さらに記憶力を上げるには、上記で紹介したタイプ別のトレーニングを行いながら、脳全体の機能を上げる生活が大切です。
特に意識したいのは、睡眠と食事などの生活習慣だといいます。ここでは、記憶力を上げるために、脳全体の機能を鍛える方法を紹介します。
睡眠時間を十分に確保する
言語系記憶、視覚系記憶、運動系記憶をつかさどっているそれぞれの脳番地は、「記憶の中枢」とも言われる海馬という部分と常に連動して働いています。
この連動を円滑にするために欠かせないのが睡眠です。
加藤先生は、大人でも7〜8時間、小学校入学前の子どもなら10時間以上、さらに昼寝もさせた方がよいといいます。
「それぞれの番地が海馬と連動する際、ニューロンと呼ばれる神経細胞を介して情報を交換しています。
ニューロンには、睡眠不足の状態が続くと活動量が低下してしまうため、記憶力を上げるには、しっかりと睡眠をとることが不可欠な要素です」(加藤先生)
時間を決めて行動する
時間を決めて行動することは、「過去やったこと」と「これからやること」を、時間の意識により脳の覚醒が高まった状態で記憶する効果が期待できます。
「時間を意識して行動することは、同じ物事であっても、記憶力を高めることにつながります。
そのため、睡眠時間を削ってダラダラと勉強や仕事をするような時間の使い方は、かえって記憶力を下げることにつながってしまうためおすすめしません。
夜にしっかりと眠り、朝スッキリと起きる、準備やご飯を食べる時間的余裕を持つ、そんな毎日を送ることが重要なのです。
また、時間を意識できる子供であれば、“頭のいい子”に育つでしょう」(加藤先生)
しっかり朝食を食べる
十分な睡眠をとって目覚めたら、しっかり朝食をとることも大切です。ただし、慌ただしくかき込むようにして食べるようでは、あまりよい効果は期待できません。
「理想は、ごはんと焼き魚と納豆、味噌汁といった和朝食を、順序を考える余裕を持って食べることです。和食は品数が多いので、次に食べるものを選ぶことが脳への刺激になるのです」(加藤先生)
食べ物を選ぶ視覚系記憶の刺激と、お箸を使った運動系記憶の刺激を一度に受けることができるのが和朝食というわけです。
家族で会話しながら食べれば言語系記憶も刺激されるので、記憶力のアップに向いている習慣だといえそうです。
子どもの記憶力を高める方法

子どもの記憶力を高めるには、「覚える習慣」を身につけて、常に脳を鍛えられる環境にしてあげることが大切です。
なんでも暗記させてみる
丸暗記することは、海馬を刺激し、記憶力を鍛えるのにとても有効です。
覚えることを苦痛に感じないよう、動物や電車の名前など、その子の好きなものを「覚えてごらん」と促してみましょう。
「最近では、『丸暗記させる教育はよくない』といわれていますが、脳を鍛えるという目的においては、丸暗記はとても有効な方法です。
漢字の書き取りや詩を覚える授業は、子どもたちの脳を鍛えるために、とても有効な勉強法なのです」(加藤先生)
正確にコピーする訓練をさせてみる
記憶力を鍛えるには、覚えて、思い出すことが大切です。
絵を描く、スポーツ選手の動きやキャラクターのセリフなどを真似るなど、好きなもの覚えさせて思い出す機会をつくってあげましょう。
時間を意識させてあげる
時計やストップウォッチを使って「◯時までに宿題を終わらせよう」「あと◯分でお風呂に入ろう」など、時間を意識する習慣を身につけさせましょう。
時間の意識は脳への強い刺激になり、記憶力を高めます。終わってから「◯時までにできたね」「◯分早くできたね」と、一緒に振り返るといいでしょう。
<参照>
加藤俊徳著『楽しく簡単に脳が冴えわたる! 記憶力の鍛え方』(宝島社)
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