
ナルコレプシーとは、昼間に耐えられないほど強い眠気に襲われ、起きているのが困難になる症状が続く睡眠障害の一種です。一体どのような病気なのか、主な症状と原因、検査方法、治療方法を紹介します。ナルコレプシーは日常生活に支障をきたす病気のため、早期検査・治療が大切です。該当の恐れがある人は、睡眠外来で検査を受けましょう。
ナルコレプシーとは「日中、耐えられないほどの強い眠気に襲われ、起きているのが困難になる」症状の睡眠障害であり、このような症状が3ヶ月以上続く場合に疑われます。睡眠障害国際分類(ICSD-3)の分類では、睡眠障害のうちでも「過剰な眠気をきたす中枢性症候群」のひとつと定義されています。
ナルコレプシーの症状は、主に以下の4つが挙げられます。
自分の意志ではどうすることもできない睡魔に突然襲われます。その眠気は食事中や会話中、歩いている途中でも眠り込んでしまうほど強烈で、いつ襲ってくるか予測ができません。周囲からは居眠りしているように見えるため「怠け者」と誤解されることもあります。
怒る、泣く、笑う、驚くといった感情的な強い刺激が加わった「興奮状態」のときに、あごやまぶた、膝の力が抜け、ろれつが回らない状態になります。重度になると全身の力が抜け、地面に崩れ落ちてしまうこともあります。
入眠時、まるで金縛りにあったように全身が脱力状態になることがあります。
入眠時に幻聴や幻覚症状を起こし、パニックに陥ることがあります。
睡眠障害である「過眠症」は、ナルコレプシー以外も複数存在します。過眠症の恐れがある人は、こちらも確認しましょう。
うつ病を患っている人が日中に強い眠気を感じる症状です。倦怠感とともに気だるい眠気があり、長い時間を眠って過ごしてしまう特徴があります。
睡眠時に呼吸が止まったり、気道の空気の流れが弱くなったりする睡眠時無呼吸症候群になると、無呼吸発作や酸欠による途中覚醒によって睡眠のリズムが崩れ、睡眠の質が低下します。その影響により、日中強い眠気を感じます。
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過眠症状を起こす明らかな原因がない場合は「特発性過眠症」と診断されます。主に10~20歳代に発症することが多く、疾患の割合はナルコレプシーよりやや少ないと推測されています。
ナルコレプシーの症状は、主に以下の4ナルコレプシーはなぜ起こるのでしょうか。長年、ナルコレプシーは原因不明の睡眠障害とされていましたが、近年は研究が進み、徐々に原因が解明されてきました。
ナルコレプシーは「オレキシン」という脳内物質が欠乏することで起こります。現在のナルコレプシー患者の90%以上でオレキシンを作る神経細胞(ニューロン)が変形・脱落していることが明らかになっています。
また、ナルコレプシーは家族性の発症がわずか5%で、散発的に発生する孤発性であることほとんどです。罹患している人には特定のHLA(ヒト白血球抗原)遺伝子型を有する割合が健常の人に比べて高いことも分かっています。
このほか、ストレスなどの環境的な要因が加わって発症するケースが多いとされています。
通常の「覚醒」は、脳の視床下部にある「覚醒」を指示するコントロールセンターと、それを受けて「覚醒物質」を分泌する神経細胞(ニューロン)によって維持されています。しかし前述の原因などにより、「覚醒」を起こす働きが低下することで、「過眠」の症状が発生します。過眠症状が起こるメカニズムは、ナルコレプシー以外の過眠症にも該当します。
ナルコレプシーは国内で約600人に1人が罹患しており、特に10代で発症することが多いとされています。突然の発作は学業や仕事に支障をきたし、交通事故などの重大なトラブルを引き起こす恐れもあります。ナルコレプシーの恐れがある人は早期検査・早期治療に取り組みましょう。
まずは自分の過眠の状態を把握するため、セルフチェックをしましょう。ここでは一般的ナルコレプシーのチェックに用いられる「エップワース眠気尺度(JESS)」を紹介します。
最近の日常生活を思い浮かべながら、0から3のうちで最も当てはまる番号を1つチェックしましょう。質問項目にある状況になったことがない場合は、その状況にあったとしたらどうなるか想像して応えてください。
チェックした数字の合計が11以上の場合は、現在日中の眠気が強い状態にあるといえ、ナルコレプシーなどの過眠が疑われます。
ナルコレプシーが疑われるときは、睡眠外来など専門の医療機関を受診しましょう。睡眠外来が近くにない場合は、まずはかかりつけの医師や産業医、近所の内科・婦人科など身近な医療関係者に相談するのもいいでしょう。
専門医を受診後、検査へ進みます。ナルコレプシーの検査にはいくつかの方法があるため、医師と相談の上、適した検査を受けましょう。
睡眠時に行うPSGと、翌日に行うMSLTのセットが効果的です。まず夜間に行うPSGでは脳波や眼球運動、心電図、筋電図、いびき、血中酸素飽和度などで、睡眠の状態と睡眠に関連した生体活動を評価。翌朝から、2時間毎に5回睡眠潜時(眠るまでの時間)や入眠する様子を記録し、日中の眠気の程度やレム睡眠の出現の有無をチェック。過眠症状をきたす病態を調べます。
ナルコレプシーに特有の遺伝子型「DR2」「DRB1*1501」「DQB1*0602」を有しているかどうかを調べます。
オレキシンという脳内物質の値を調べます。正常値の最低ラインより低ければ、ナルコレプシーの可能性がかなり高くなります。
ナルコレプシーは、現在の医学では完治は難しいといわれています。しかし継続的に治療を行うことで症状を改善することが可能です。
日中の強い眠気に対しては、脳の機能を活発にする「中枢刺激薬」が用いられますが、これには「メチルフェニデート」、「ペモリン」といった覚醒剤系の薬物が含まれるため依存症の問題がありました。しかし最近では、依存性の問題が少なく、吐き気や動悸などの副作用も少ない「モダフィニル」が使われるようになっています。そのほかの症状(情動脱力発作、睡眠麻痺、入眠時幻覚)には主に「クロミプラミン」などの「三環系抗うつ薬」が使われます。
起床時刻と睡眠時間を決めるなど規則正しい生活を心がけることで、症状をやわらげることに繋がります。日々の生活を通して、睡眠障害と上手に付き合っていきましょう。
<参考>
『睡眠障害のなぞを解く』櫻井武著(講談社)
ナルコレプシー(過眠症)の症状と原因とは?|今すぐセルフチェック、睡眠の質を高める方法
「寝ても寝ても、眠い」は病気?考えられる5の原因と13の解決策
医師・医学博士
坪田 聡
医師として睡眠障害の予防・治療に携わる一方で、睡眠改善に特化したビジネス・コーチとしても活躍中。「快適で健康な生活を送ろう」というコンセプトのもと、医学と行動計画の両面から睡眠の質を向上させるための指導や普及に尽力。総合情報サイトAll about 睡眠ガイド。 「睡眠専門医が教える! 一瞬で眠りにつく方法」(TJMOOK 宝島社)、「パワーナップ仮眠法」(フォレスト出版)他、監修・著書多数。
医療法人社団 明寿会 雨晴クリニック 副院長
Site: http://suiminguide.hatenablog.com/
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