仕事や運転中など集中力が必要なシーンで、突然強烈な睡魔におそわれて困ったことはありませんか?
睡魔は、もともと備わっている「体内時計のリズム」による正常な睡魔と、不規則な生活習慣などで「体内時計のリズムが乱れた」ことによって起こる睡魔があります。
今回は睡魔が起こるメカニズムや解消法、予防法をご紹介します。
日中、突然睡魔におそわれ、「仕事がはかどらない…」と悩んだことはありませんか?日中の決まった時間におとずれる睡魔は、もともと人間に備わっている「体内時計のリズム」によるものです。
しかし、「体内時計のリズム」の乱れや、眠気をコントロールする脳内物質「睡眠物質」の増加、血液中の栄養状態の変化などがあると、決まった時間以外にも予期せぬ睡魔におそわれます。
睡魔はもともと人間に備わっている「体内時計のリズム」によって引き起こされます。
体内時計のリズムには、24〜25時間の周期で、「夜になると眠くなり、朝になると目が覚める」という一定のリズムを持つ「概日リズム(サーカディアンリズム)」と、午前2〜4時と14〜16時に眠くなる「半概日性(はんがいじつせい)リズム」の2種類があります。
これらによって、決まった時間に睡魔が訪れる仕組みになっていますが、このリズムが崩れてしまうと、決まった時間以外にも睡魔におそわれやすくなります。
体内時計を調整するために必要な、「睡眠ホルモン」と呼ばれている「メラトニン」の分泌が正常に行われないと、体内時計のリズムが崩れ、「睡眠-覚醒」のスイッチが切り替わらず睡魔におそわれることがあります。
「メラトニン」は、朝に太陽の光を浴びることで生成された「セロトニン」が変化してできます。
体内時計は、「セロトニン」が分泌された14~16時間後に「メラトニン」が生成され、眠気を感じる、というリズムで成り立っています。
しかし、朝に太陽の光をしっかり浴びないと、夜に生成された「メラトニン」の分泌が止まらず、眠気が残ってしまいます。このため、日中も睡魔におそわれてしまうのです。
「深部体温リズム」も体内時計のリズムのひとつです。体温には、皮膚の表面の体温「表面体温」と、内臓や脳など身体の深部の体温「深部体温」の2種類があります。
「深部体温」が高くなると目が覚め、低くなると眠くなる、というのが「深部体温リズム」です。
「深部体温リズム」はずれにくく、通常は起きてから11時間後に最も高く、22時間後に最も低くなるというリズムを刻んでいます。
しかし、慢性的な夜ふかしなどで不規則な生活が続いていると、深部体温が上がるリズムが少しずつ遅い時間にずれていき、本来目が覚めているはずの日中に睡魔がおとずれるようになります。
睡眠物質は、起きている時間と脳の活動量に比例して増え、眠気が強くなります。この物質は眠ると分解され、減る仕組みになっています。
そのため、睡眠時間が減ると分解する時間が不足するため、脳に睡眠物質がたまり、眠気が引き起こされやすくなります。
一般的に、人間の脳は起きてから4時間後が最も活動的で、1日の中で一番頭が働く時間帯とされています。つまり、起きてから4時間たっても眠気を感じる場合は、睡眠不足の可能性が高いです。
血糖値が下がると、脳にブドウ糖が送られなくなり、脳の活動が低下するため、睡魔がおとずれます。
特に食事をすることで急激に血糖値が上がった場合、それと同じ速度で血糖値は下がるので、血液中のブドウ糖が少なくなる「低血糖」になりやすく、睡魔におそわれる可能性が高くなります。
女性は生理前になるとホルモンバランスの変化から、「月経前症候群(PMS)」の症状のひとつとして、強烈な睡魔におそわれることがあります。
生理前になると、子宮に妊娠準備をさせる「プロゲステロン」という女性ホルモンの分泌が増えます。
「プロゲステロン」は「睡眠ホルモン」であるメラトニンを大量に分泌するため、眠くなる状態が続きます。
生理直前になると活動や緊張をつかさどる「交感神経」と、休息をつかさどる「副交感神経」の切り替えがうまくいかず、交感神経が優位な状態になりやすくなります。
そのため、寝付きが悪くなったり、夜中に何度も目が覚めたりするなど、睡眠の質が下がり、日中の睡魔を感じやすくなります。
生理前には強い睡魔のほか、頭痛や便秘など、さまざまな症状が現れます。
PMSの症状が現れやすい人の特徴は次のとおりです。5~9項目当てはまった人は症状が出やすい人、10項目以上当てはまった人はPMSの症状が重い人です。
ご自身の月経サイクルを知り、生理前にはリラックスをする時間を増やすなどのセルフケアを心がけましょう。
書籍『PMSの悩みがスッキリ楽になる本』池下育子著(東京書籍)より引用
禁煙を始めた途端、「強い睡魔におそわれて仕事に集中できなくなった」という人も多いのではないでしょうか。
睡魔に負けてついついタバコに手を伸ばしてしまうと、より症状が悪化する可能性があります。
禁煙による睡魔は、ニコチン不足による離脱症状です。
ニコチンは、本来脳が出すべき交感神経を刺激する神経伝達物質「アセチルコリン」の代わりに、脳細胞を活性化させて、記憶力や集中力を高めるといわれています。
そのため、眠いときにタバコを吸うと、目が覚め、頭がすっきりしたと感じる人もいます。
しかし、こうした感覚は喫煙を続け「ニコチン依存症」になっているときに起こる作用で、身体の疲れが根本から改善されたわけではありません。
また、喫煙中は本来脳が持っている「目覚まし機能」をニコチンに任せてしまっているため、禁煙によって血中のニコチンが減ると脳内伝達物質の調整がうまくいかず、頭がボーっとするなどの症状が出てしまいます。
「離脱症状」は、喫煙年数が長いほど強く現れます。睡魔のほかにも、下記のような症状がよく見られます。
禁煙すると20分後くらいから身体的な変化があらわれ、強い睡魔やイライラ感など、不安定な症状が見られるようになります。
禁煙開始直後は離脱症状に苦しむかもしれませんが、続けるうちに身体のさまざまな機能が改善し、呼吸が楽になるなどの健康効果も期待できます。
禁煙後は、主に次のような流れで心身に変化があらわれます。
睡魔は突然、やってきてほしくないタイミングでおとずれるもの。ここでは、何とかして今すぐ解消したい、という時に使える方法を紹介します。
耳には100以上のツボがあるといわれており、特に耳たぶのツボは軽くもむと身体があたたまり、活動モードに切り替わるツボです。
両手で左右の耳たぶを持ち、下にゆっくり3秒引っ張ったらポンと放す動作を、4〜5回繰り返しましょう。仕上げに耳全体をもんだり、上下・左右・斜め方向に引っぱったりすることで、耳全体のツボが刺激され、より効果的です。
日中に直射日光を浴びたり、窓際から外を眺めたりするだけで、睡魔を撃退できます。
天気が悪い日や、オフィスで日光を浴びる機会に恵まれない日は、パソコンやスマートフォンのブルーライトでも、眠気を解消できます。
人と会話をすると脳が働き、眠気が解消されます。
仕事中に眠気を感じたら、コーヒーブレイクをとったり、同僚とコミュニケーションをとったりするなどの時間をもうけてみましょう。
コーヒーや緑茶などに含まれるカフェインは、脳にたまった睡眠物質の働きをブロックして、眠気を払う作用があります。
ただし、カフェインをとった直後には目が覚める効果が出ないので、注意が必要です。カフェインをとるタイミングは、効果を発揮したいときから20〜30分前です。
また、カフェインの効果の持続時間は3時間程度なので、この間に集中して作業をしましょう。
アイソメトリックスとは、関節を動かさずに筋肉を収縮させる運動のこと。身体をゆっくりほぐして交感神経を活発にすることで、血圧や体温を上昇させ目覚めをうながすことができます。
ここでは、オフィスで簡単にできる方法をご紹介します。
<身体が一気に目覚めるアイソメトリックス>
かむという動作は、脳の神経伝達物質「セロトニン」の分泌を促進する働きがあります。セロトニンの量が増えると神経細胞が活発になり、脳や身体を目覚めさせてくれます。
「冷たい」という刺激は、活動をつかさどる神経「交感神経」を活発にするため、目覚め度がアップします。
ただし、即効性はありますが、効果が継続する時間が短いので、他の方法と合わせて活用しましょう。
睡魔がおそってきたときには、ツボを押すとすっきり目が覚めることがあります。ここでは、症状別に3つのツボを紹介します。
【押すツボ】
目頭のやや上、骨がカーブしているところの角の裏側にある「睛明(せいめい)」というツボ
【ツボの押し方】
睛明に親指をあて、内側ななめ上に向かって差し込むように何度か押す
【押すツボ】
後頭部の髪の生え際で、首の中心にある「僧帽筋(そうぼうきん)」のすぐ外側にある「天柱(てんちゅう)」というツボ
【ツボの押し方】
親指の第一関節を曲げて、指先で頭の中心に向かって押し上げる
耐えがたい睡魔と戦わず、すっきりとした気分で日中を過ごすにはどうしたらよいのでしょうか。ここでは睡魔の予防法を紹介します。
仮眠は眠気を感じる前にとることが重要です。眠くなってから仮眠をとってしまうと、眠りすぎてしまい、仮眠後も眠気がなかなかとれないなどのデメリットがあります。
ここでは忙しいときでも実践できる、「1分間仮眠法」を紹介します。
椅子に深く腰かけ、全身の力を抜いてリラックスします。軽く目を閉じて、目から入る情報をシャットアウトしましょう。「いまから疲れを取るんだ」と、休むことに集中することが大切です。
「仕事の効率が下がってきたな」「ちょっと疲れたな」と感じたタイミングで、目を閉じて1分間仮眠をとりましょう。意識的に何度も繰り返すことで、脳の疲労がとれます。
日中の睡魔を少なくするためには、夜の睡眠の質を高めて睡眠物質を減らすことが大切です。ここでは、眠る前に実践してほしい、睡眠の質を高める方法を紹介します。
質のよい眠りを得るためには、スムーズに眠ることが大切です。スムーズに眠るためには、眠る1時間前までに湯船につかり、入浴をすませましょう。
38〜40度のぬるま湯に設定し、20分程度湯船につかると、休息をつかさどる「副交感神経」が優位になり、リラックスします。
また、深部体温が入浴によって上がり、汗がひいて深部体温が下がったタイミングで眠気がおとずれるため、スムーズに眠ることができます。
髪がぬれた状態のままだと首もとが冷え、交感神経が刺激されて、安眠のさまたげになってしまいます。入浴後はしっかりとドライヤーで髪を乾かしましょう。
睡眠中に汗をかくことで、体温が下がり、眠りが深くなります。
しっかりと汗をかくためにも就寝前の水分補給は不可欠です。冷えた水だと身体が緊張し、眠りが浅くなってしまうので、常温の水を飲みましょう。
眠る前にテレビやスマートフォンを見てしまうと、脳が興奮して寝付けなくなり、睡眠の質が下がります。
一度読んだことのある本は脳に与える刺激が少ないので、スムーズに眠ることができます。
嗅覚は脳と深く結びついているため、休息をつかさどる神経「副交感神経」の活動をうながし、睡眠の質が高まります。
ラベンダーやローマンカモミールなどハーブ系のアロマオイルや、コーヒーの生豆が入った容器を枕もとに置くと、安静効果があります。
なかなか寝付けない夜は、心の中の気になったことを書き出してみましょう。
書く内容はできるだけシンプルにし、「会議」「〇〇さん」などの単語だけでもOKです。深く考えず、「ペンや鉛筆で悩みを身体の外に出す」というイメージで実践してみましょう。
「夜しっかり眠っているはずなのに、日中睡魔におそわれる」という場合は、病気の可能性があります。下記の症状に当てはまる場合は、早めに病院を受診しましょう。
過眠症とは睡眠障害の一種で、仕事中や食事中など、眠ってはいけないときにも断続的に眠りたくなるような強い睡魔におそわれる病気です。
この睡魔によって集中力や持久力が損なわれるため、仕事や学業に支障をきたすこともあります。
日中に耐えがたいほどの眠気におそわれ、会議中や食事中、会話中など眠ってはいけない場面でも眠ってしまいます。
30分以内の断続的な日中の眠り日中に眠っている時間は長くても約30分以内と短く、目が覚めた後は一時的にスッキリします。しかし、しばらく時間がたつと、再び強い睡魔におそわれます。
情動脱力発作「笑う」「怒る」など感情が急に変化したときに、手の力が一瞬抜けたり、あごの力が抜けてろれつが回らなくなったり、全身の力が抜けたりします。
ただし、いずれの症状も、数秒ほどで自然に回復する場合がほとんどです。
金縛り(睡眠麻痺)や入眠時幻覚金縛りにあったり、現実と区別がつかないような夢(入眠時幻覚)を体験したりします。特に、眠ってすぐや目覚める直前などに多く見られます。
過眠症の原因は、「睡眠を作る仕組み」と「目覚めを作る仕組み」のバランスが崩れることで、脳の視床下部にある目覚めのコントロールセンターから命令が出なくなることが原因だといわれています。
これによって、目が覚めている状態に切り替えができず、睡魔におそわれます。
「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」とは、睡眠中に呼吸が止まってしまう病気のこと。
眠っているときに症状が出るため、本人は自覚をしづらく、気づかないうちに身体に負担がかかってしまいます。
睡眠時無呼吸症候群になると、しっかり睡眠時間を確保していても夜間に何度も目が覚めてしまうため、睡眠の質が低下します。
さらに、呼吸をしていない時間があるため、脳や身体が酸欠状態(低酸素状態)になり、全身に十分な酸素が行きわたらず、疲労物質が体内にたまり、日中に強い睡魔を引き起こしてしまいます。
いびきいびきは、睡眠時無呼吸症候群の代表的な症状です。ただし、すべてのいびきが、睡眠時無呼吸症候群の症状というわけではありません。
お酒を飲んだときなどに起こる一時的ないびきとは、区別しましょう。疑いがあるのは、次のようないびきです。
<睡眠時無呼吸症候群が疑われるいびき>
肥満になると、のどの周辺に脂肪がついて気道が狭くなり、無呼吸や低呼吸を引き起こしやすくなります。肥満の人はそうでない人と比べ、睡眠時無呼吸症候群の発症リスクが3倍あります。
顎が小さい、狭いやせ型で骨格が細い人やあごが小さい人は、気道がふさがりやすいため、ちょっとした体重の増加でも睡眠時無呼吸症候群になるリスクは上がります。
鼻がつまりやすい花粉症やその他のアレルギーなどで鼻がつまっていると、自然と口で呼吸をするようになります。
睡眠中に口で息をしていると、重力で舌が落ちて上気道が狭くなり、いびきや無呼吸の原因になります。
<参照>
『パワーナップ仮眠法』坪田聡(フォレスト出版)
『「いつも眠い~」がなくなる快眠の3法則』菅原洋平(メディアファクトリー)
『睡眠の病気』内山真(NHK出版)
『脳も体も冴えわたる1分仮眠法』坪田聡(すばる舎)
『一瞬で眠りにつく方法』坪田聡(宝島社)
photo:Getty Images
監修
医師・医学博士
坪田 聡
医師として睡眠障害の予防・治療に携わる一方で、睡眠改善に特化したビジネス・コーチとしても活躍中。「快適で健康な生活を送ろう」というコンセプトのもと、医学と行動計画の両面から睡眠の質を向上させるための指導や普及に尽力。総合情報サイトAll about 睡眠ガイド。 「睡眠専門医が教える! 一瞬で眠りにつく方法」(TJMOOK 宝島社)、「パワーナップ仮眠法」(フォレスト出版)他、監修・著書多数。
医療法人社団 明寿会 雨晴クリニック 副院長
Site: http://suiminguide.hatenablog.com/
Sleep Stylesは、睡眠に悩む全てのビジネスパーソンへ向けて、睡眠をテーマとした睡眠学研究レポートを公開しています。よりよい睡眠で日中のパフォーマンスを上げたい方々に向け、良い睡眠習慣への改善を総合的にサポートしてまいります。
皆さんは、定年後にどんな生活を送りたいですか? フミナーズ読者なら、快適な睡眠が満喫できる生活に憧れを抱く人も…
毎晩眠るたびに、高血圧や糖尿病、心筋梗塞などを引き起こすリスクが高まる…。そんな恐ろしい病が、身近にあることを…