誰でも一度は、頭痛に悩まされた経験を持っているのでは?女性の96%、男性の91%が一生のうち何らかの頭痛を経験しています(※1)。なかでも、眠れないほどひどく痛むことがある「片頭痛」の有病率は8.4%とされ、その多くが女性です(※2)。
そこで、「片頭痛」の原因と改善するための対策を原因別にまとめました。
一般的な頭痛と片頭痛の違いは、痛みの現れ方で判別されます。
「ズキン、ズキン」「ドクン、ドクン」と心臓の鼓動に合わせて痛みを感じたり、頭の片側だけが痛んだり、歩いたり、姿勢を変えるだけで痛みが強くなることもあり仕事や家事、睡眠に支障をきたすほど強い痛みがあるのが、片頭痛の特徴です。人によっては月に1回〜数回の頻度で片頭痛が起こり、一度痛み始めると数時間~数日間続くこともあります。
体調が悪いときやお酒を飲み過ぎた時の頭痛とは違い、頭痛薬を飲んでもなかなか痛みが和らぎません。しかし、我慢してしまう人も多いようです。
片頭痛は「予兆や前兆を伴うもの」と「伴わないもの」に分けられ、前兆を伴う頭痛は全体の20〜30%と考えられています(※3)。
片頭痛の代表的な前兆は視覚や感覚の障害ですが、ごくまれに言葉が出てこなくなる症状や、一時的に身体の半分が麻痺してしまうこともあります。
<片頭痛の主な前兆>
明らかな頭痛発作が起こる1日くらい前から数時間前に発生します。あくび、落ち着きのなさ、イライラ、空腹感、集中力低下などの神経精神症状が出ます。片頭痛の20%位の人に、予兆が起こると考えられています。
片頭痛の主な原因は「頭部の血管の拡張」。気圧などの外的刺激、またはストレスや生活習慣による脳の血管拡張によって、頭痛を感じると考えられています。まだ全てが明らかになっているわけではありませんが、血管拡張の仕組みについては次の3つの説が有力とされています。
目、鼻、口、顔面などの感覚を司っている脳神経の中で最も太い神経系「三叉神経」は、ストレスなどの刺激を受けると圧迫され、「神経ペプチド」と呼ばれる痛み物質を放出します。これが、血管の拡張と炎症を引き起こし、この刺激による興奮が脳に伝えられて、吐き気・嘔吐や頭痛につながります。
過度のストレスや何らかの刺激により、血小板から大量のセロトニンが分泌されます。大量のセロトニンが分泌されると、一時的に脳の血管は収縮し、前兆が起こると考えられます。
しかし、時間の経過とともにセロトニンが分解・排出されていくと収縮していた血管が急激に拡張し、拍動性(脈に合わせてズキン、ズキンとする)の頭痛が起きると考えられます。なお、セロトニンとは、心のバランスを整える作用のある神経伝達物質で脳内のセロトニンが適切になると精神的なバランスが整い、ストレスの解消に役立つとされています。
血糖値とは、血液中のブドウ糖濃度のこと。ブドウ糖は全身の細胞のエネルギー源となるため、生きるためは不可欠な栄養素です。そのため、血糖値が下がると、血糖値を上昇させる働きのあるノルアドレナリンやアドレナリンなどのホルモンが分泌されます。
しかし、こうしたホルモンは同時に心拍数の上昇や脳の覚醒といった作用を持っているため、それにより脳の血管が過度に収縮・拡張して片頭痛の原因になると考えられています。また、低血糖時の脳への血流量の低下を補うため、血管が拡張しやすくなることも考えられます。
片頭痛の原因となる血管の拡張は、外的な刺激によるものとストレス、生活習慣によるものなどに分けられます。原因別に対処法をまとめました。
片頭痛の原因として最も多く挙げられるのが、気圧や季節の変化などによる外的刺激から起こる血管の拡張です。
季節の変わり目、天気が悪い時などに頭痛が起こりやすいのは、気圧が関係しています。気圧の変動で脳の血管をおさえていた圧力が下がると血管が拡張し、周囲にある神経を刺激してしまうために頭痛が起こると考えられています。
季節や天気は、自分の力ではどうすることもできません。拡張した血管を収縮させるために、下記のような応急処置を行うとよいでしょう。
<対策>
敏感な人は強い光や匂い、騒音などの強い刺激によって脳の血管が膨張し、頭痛を起こすことがあります。また、まだ研究中ですが、家電などの電気製品・電子機器や様々な電磁波も片頭痛を起こす可能性があります。
<対策>
女性の場合、生理前の頭痛に苦しんでいる人も多いもの。これは、エストロゲン(女性ホルモン)の減少が原因だと考えられています。女性ホルモンであるエストロゲンの分泌は、セロトニンの分泌と比例関係があるとされています。
つまり、月経前にエストロゲンが減ってしまうことによって、セロトニンも減ってしまいます。月経前症候群(PMS)の一種です。
このセロトニンの減少で血管が拡張し、頭痛を引き起こします。生理に伴う片頭痛は、他の原因による片頭痛と比べて非常に痛みが強いとされています。
下記の対策を行って、女性ホルモンのバランスを整えるようにしましょう。
<対策>
COMTやMAO Aなどのセロトニンやエストロゲンの代謝遺伝子の発現などに特徴がある場合、食事や生活だけではなかなか改善しません。こうした代謝酵素の特徴や遺伝子の発現の状態を調べて、それに対処する方法もあります。
ストレスを感じた時に頭痛を訴える人も多いもの。ストレスの原因をなるべく避けて、心の安定を保つのが有効です。
意外なことに、ストレスから解放された時にも片頭痛が起こる場合もあります。「週末頭痛」と呼ばれ、仕事で常にストレスを抱えている人が、週末になると決まって片頭痛を起こすことも多いようです。これは、ストレスで収縮していた脳の血管が、ホッとした瞬間に急激に緩むためだと考えられています。
仕事の量を調整するなどストレスを感じないようにするのが一番の対策ですが、難しい場合は次のことに気をつけて週末を迎えてみましょう。過ごし方を少し変えるだけで、週末の頭痛が軽減するかもしれません。
<対策>
生活習慣や日常の何気ない行動が、片頭痛の原因になっている場合があります。原因を見極め、適切な対処をしましょう。
「お腹が空いた時に頭が痛くなる」という人は、低血糖が原因かもしれません。片頭痛の原因のひとつとして紹介したように、血糖値が下がると、生命維持のために脳からノルアドレナリンやアドレナリンが分泌されます。それにより、脳の血流が変化してしまうのです。
また、血糖値が低くなると、それを正常に戻すために、血液中に「遊離脂肪酸」と呼ばれる物質が放出されます。この「遊離脂肪酸」が脳の血管を傷つける「活性酸素」を作り出すため、片頭痛を引き起こすことも考えられています。
お腹が空いた時、ジュースやクッキーやチョコレートやなどの甘いものを食べると急激に血糖値が上がりますが、その後、急激に下がってしまうと片頭痛の原因になります。空腹時は血糖値を緩やかに上げ、持続しやすい食べ物を選ぶとよいでしょう。
<対策>
運動した後に頭が痛くなるという人は、血行が促進されたため、脳の血管が一時的に拡張していると考えられます。ほかにも、入浴や飲酒などで血行がよくなると、頭痛が引き起こされることもあります。
<対策>
上記の要因に加えて、生活リズムの乱れは片頭痛を起こしやすい体質にすると言われています。これまで挙げた対策で一時的な痛みを緩和するだけでなく、生活習慣そのものを改善することが、片頭痛の根本的な対策にもなります。
生活習慣は自分でコントロールしやすいため、片頭痛に悩まされている人は一度、自分の生活を見直してみると改善のヒントが見つかるかもしれません。
片頭痛の改善のため、ぜひ見直してほしいのが睡眠。睡眠不足は、片頭痛を招く大きな要因の一つと言われています。
片頭痛を改善するためには、質の良い十分な睡眠が効果的。次のことに注意して、睡眠の質を高めてみるとよいでしょう。
<効果的な睡眠のためにできること>
質の良い睡眠は、拡張した脳の血管を元に戻してくれるとも言われています。片頭痛に悩んだ時は暗くて静かな部屋で休み、そのまま眠ってしまうのも良いかもしれません。また、毎晩7.5時間程度の睡眠を目安に心がけ、睡眠不足にならないようにしましょう。
ただ過度の睡眠はかえって片頭痛の原因になるので、休日の寝溜めや長時間の昼寝は避けた方が良く、休日でも平日と同じくらいの時間に起きるよう心がけ、昼寝も14-15時より前までで、30分間程度にとどめましょう。
片頭痛の改善に睡眠はとても効果的ですが、「痛くて眠れない…」という時もありますよね。そんな時は、寝る前に次のことを試してみましょう。
拡張してしまった血管を引き締めるために、冷たいタオルなどで痛む部分を冷やしましょう。通常の頭痛は温めた方が良いとされていますが、片頭痛の場合は温めると悪化してしまうのでご注意を。
強い光や音が苦手な場合は部屋を暗くしてテレビを消す、仕事などでストレスがたまっている時はゆったりとした音楽を聴き、アロマを焚いてリラックスするなど、自分がストレスを感じにくい環境をつくりましょう。
両耳からまっすぐ上へ上がった線と、眉間の中心から上がった線が交差する場所は、片頭痛に効果的な「百会(ひゃくえ)」というツボです。また、首の後ろの髪の生え際にあるくぼんだ部分にある「風池(ふうち)」というツボも、頭痛を緩和する効果があるといわれています。
何をしても痛みが消えず、生活に支障をきたすという時は、薬を使うことも検討した方がよいこともあります。
しかし、残念ながら市販の鎮痛剤には片頭痛を治療する作用はありません。軽い痛みであれば鎮痛剤で痛みが治まりますが、拡張した血管を収縮させることはできません。
また、薬局で市販されている頭痛薬を月10回以上服用する場合は薬物乱用頭痛に陥る危険もありますので、医療機関を受診して医師の指導のもとで薬物療法を行う方がよいでしょう。
医療機関では片頭痛と診断すれば、トリプタン系薬剤やエルゴタミン製剤を処方することが多いです。血管を収縮させる作用がありますが、前兆ないし、痛みが出始めたときに素早く服用することが肝心で、完全に血管が拡張しきってから服用してもあまり効果がありません。
市販の薬剤を含めてどんな薬剤にも副作用の可能性がありますので、充分注意して下さい。
片頭痛と不眠症には、密接な関係があることがわかっています。その特徴と対処法をまとめました。
睡眠不足はストレスや自律神経の乱れを引き起こし、それが片頭痛につながります。
一次的な睡眠不足ではなく、長期的な不眠症による片頭痛の予防・対処には、毎日の睡眠のリズムを整えることが大切です。特に就寝時間や起床時間が平日と比べて乱れがちな休日は、以下のことに気をつけてみましょう。
<睡眠リズムの整え方>
片頭痛の痛みが原因で満足な睡眠をとることができず、慢性的な不眠症になってしまうケースもあります。また、単純に痛みで眠れないだけでなく、「また頭が痛くなったらどうしよう」という不安が原因になる場合もあるようです。
そんな時、先に説明した「痛くて眠れない時の対処法」のほかに、気持ちをリラックスさせる方法を試してみましょう。
<片頭痛による不眠症の対策>
人によっては睡眠中にも片頭痛に襲われることがあり、特にレム睡眠中またはレム睡眠の直後に起こりやすいといわれています。これは、日中に過度のストレスを受けたことが原因だと考えられています。
日中のストレスを軽減し、日頃から気持ちを穏やかにするセロトニンの働きを助ける食品をとることを心がけましょう。
<睡眠中の片頭痛の解消法>
片頭痛の痛みは、ストレッチで血行をよくすることで緩和することができます。通勤中やオフィスでも簡単にできるストレッチを紹介します。
<片頭痛を和らげる簡単ストレッチ>
予防法や対処法を覚えておけば、急な頭痛に悩まされることもなくなるかもしれませんね。
いつ襲ってくるかわからない片頭痛。痛みを予防する方法をまとめました。
まぶしい光や大きな音、きつい香水のにおいなど、自分が不快に思うものを知っておきましょう。事前にその場所やものを避けることで、ストレスを予防します。
片頭痛の原因になる食べ物を減らし、片頭痛の改善に効果的な成分を含む食品を積極的に摂りましょう。
下記の食品は、セロトニンの放出を促す力が強く、血管を収縮させるため、それが消化された後に血管が急激に拡張して片頭痛を起こしやすいと言われています。片頭痛に悩んでいる人は、避けたほうがいいかもしれません。
<片頭痛を起こしやすい食べ物>
個人差も大きいので、頭痛日誌を付けて、どの食べ物が関係ありそうか、自分で探すのも役に立つでしょう。
一方、片頭痛の改善に効果的とされているのが下記の食べ物。レバーや海藻類に多く含まれるビタミンB2と、海藻類や貝類に多く含まれるマグネシウムは、臨床実験により片頭痛の改善に効果があるとされています。
<片頭痛の改善に効果的な食べ物>
薬を飲んでも効果がないこともある厄介な片頭痛ですが、自分の持って生まれた遺伝子やその発現状態を知っておけば根本的な対処法がわかることもあります。そうしたら大切な予定をドタキャン…なんてことも少なくなるかもしれませんね。
<参照>
『脳も体もガラリと変わる! 「睡眠力」を上げる方法』白川修一郎(永岡書店)
『お医者さんにも読ませたい 「片頭痛」を治す方法』後藤日出夫(健康ジャーナル社)
『頭痛治癒マニュアル』山王直子(本の泉社)
『頭痛薬をやめて頭痛を治そう!』陣内敬文(現代書林)
(※1)(Silberstein SD, Lipton RB. Epidemiology of migraine. Neuro Epidemiology 1993;12:179-94 あるいは、慢性反復性頭痛は人口の10-20%とされます。小谷和彦、下村登規夫. 頭痛の疫学. モダンフィジシャン 2000;20:703-705)
(※2)(Sakai F, Igarashi H. Prevalence of migraine in Japan : a nationwide survey. Cephalalgia 1997; 17(1):15-22.)
(※3)(Sakai F, Igarashi H. Prevalence of migraine in Japan : a nationwide survey. Cephalalgia 1997; 17(1):15-22. Takeshima T, Ishizaki K, Fukuhara Y, Ijiri T, Kusumi M, Wakutani Y et al. Population-based door-to-door survey of migraine in Japan : the Daisen study. Headache 2004; 44(1):8-19)
photo:Thinkstock / Getty Images
監修
内科医
松本 明子
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