仕事や子育てなどで忙しく過ごしていると、つい睡眠時間を削ってしまい、慢性的に睡眠不足になることはありませんか?睡眠不足の状態が長く続くと、心身の疲れが蓄積して、健康を損なう可能性があります。
今回は、睡眠不足の解消法や、睡眠リズムを整える工夫をご紹介します。
睡眠不足とは?
睡眠不足とは、「自分にとって十分な睡眠がとれていない状態」のこと。睡眠時間が不足している状態だけではなく、質のよい睡眠がとれていない状態も、睡眠不足といえます。
理想の睡眠時間は何時間?
「理想の睡眠時間」は年齢によって変わるうえ、個人差もあります。
そのため、同じ時間眠っていても、睡眠不足になる人とそうでない人がいます。睡眠不足の解消には、自分に合った睡眠時間を知り、良質な睡眠をとることが大切です。
自分に必要な睡眠時間の調べ方とは?
現代の医学では、個人に合った睡眠時間をすぐに算出する方法は、確立されていません。しかし、自分に必要な睡眠時間を知るためには、自分の睡眠時間を記録することがポイント。
長期休暇や連休など1週間ほど自由な日をつくり、目覚ましをかけず、眠くなったら眠り、自然に目が覚める時刻に起きるという生活をしてみます。そして、自分が何時間寝ていたかを記録すると、自分にとって必要な睡眠時間が分かります。
長い間休みを取れない場合は、「日中の眠気」を判断基準にしましょう。例えば、23時に眠って7時に起きる生活を1週間続け、日中に眠気が出るようだったら、睡眠時間を少し延ばし、また1週間…という生活を続け、眠くならなくなったら、それが最適な睡眠時間と考えるのが目安です。
睡眠不足の弊害とは?
睡眠時間が足りなかったり、睡眠の質が悪かったりすると、日中眠くなるなどさまざまな弊害が出てきます。ここでは睡眠不足による身体への影響について説明します。
体臭がきつくなる
皮脂の分泌が過剰になり、乳酸やアンモニアなど悪臭の原因となる物質が汗の中に濃く含まれるようになります。
太りやすくなる
食欲を増進させる「グレリン」というホルモンの分泌が増え、食欲を抑えてエネルギー消費を増やす「レプチン」というホルモンの分泌が減ります。そのため、睡眠時間が短くなると食欲を抑えられず、食べる量が増えてしまいます。
また、ごはんやパンなど糖質を多く含むものを欲しやすくなります。糖質を過剰に摂取すると、体内で消費されなかった糖が脂肪に変わり、肥満につながります。
集中力、思考力などの脳機能が落ちる
アルコールを飲んだ時の「ほろ酔い」状態と同じくらいに、情報処理スピードが落ちるなど、脳の機能が低下します。
高血圧のリスクが高まる
覚醒時に活発に働く「交感神経」が優位になったままになり、血圧や心拍数などが上がり、高血圧のリスクが高まります。
うつ病をはじめとする精神疾患につながる
睡眠中、脳は嫌な記憶を整理し、ストレスを軽減しています。そのため、質のよい睡眠がとれないと脳は休むことができず、ストレスを解消できません。ストレスがたまると抑うつ症状(※1)、や適応障害(※2)などの精神疾患につながる可能性があります。
※1 気分の落ち込みによって、活動に支障が出ている状態
※2 大きなストレスによって、通常の生活に支障をきたすほど、抑うつ気分や不安が強くなってしまう状態
年齢別の睡眠について
歳をとるにつれ、睡眠のとりかたは変化していきます。ここでは年齢別に、どのような特徴がみられるのかをご紹介します。
年齢別睡眠の特徴
乳児
乳児の睡眠は「多相性睡眠」で、1〜2時間おきに寝起き眠ったり起きたりを繰り返し、合計20時間ほど眠ります。2歳くらいの幼児期になると、睡眠時と覚醒時のメリハリがついてきます。
幼児
4歳ごろから、昼寝の回数が1回にまとまりはじめ、日中は起きて過ごすようになります。6歳を過ぎるころには、日中にあまり眠らなくなります。
学齢期~壮年期
6歳以降は昼寝の必要がなくなり、夜にまとめて1回睡眠をとる「単相性睡眠」になります。10代後半〜30代にかけては、生活が夜型に変化しやすいため、睡眠不足になりやすくなります。
老年期
高齢者は日中の活動量が少ないことから、必要な睡眠時間が減少していきます。また、睡眠を維持する力が弱まるので、長時間まとめて眠れず、多相性睡眠に戻っていきます。
睡眠の質の変化
健康な若年者の睡眠は、眠りについてから深い睡眠が現れ、その後に段々だんだんと浅い睡眠が増えて覚醒へと向かっていきます。しかし、高齢者の場合は深い睡眠が少なく、中途覚醒が多くなり、早めに目が覚めてしまう傾向にあります。
高齢者の場合、この睡眠の変化に気づかず、「今まで若いころと同じように眠れない」という悩むことから、不眠症になってしまうケースもあります。
睡眠不足のサインと睡眠負債
睡眠時間が不足している場合は、自分自身でも「睡眠不足の状態である」ということを認識しやすいですが、睡眠の質が低下している場合は、自分自身で気づきにくいため、知らず知らずのうちに睡眠不足になっているかもしれません。
身体に以下のようなサインが出ていないか確認し、早めにケアしましょう。
日常生活に見られる睡眠不足サイン
睡眠不足になると、身体に以下のようなサインが出ることがあります。あてはまるものがないか確認しましょう。
起床してから4時間後にあくびが出る
睡眠時間の長短に関係なく、起床から4時間後にあくびが出たり、眠気が取れずぼーっとしたりしてしまう場合は、睡眠不足の可能性があります。
起床から4時間後は最も脳の活動が盛んで、1日の中で一番よく頭が働く時間帯です。例えば6時に起きて、10時ごろにあくびが出るようであれば、睡眠不足の可能性が考えられます。
タンスの角に小指をぶつける
うっかりタンスや机などの角に足の指をぶつけてしまい、痛みにもだえ苦しんだことはないでしょうか。実はこれも睡眠不足のサイン。
脳の覚醒レベルが落ちているために、身体の動きを正しく感知できなくなり、イメージと実際の身体の動きにズレが生じて、足をぶつけてしまうのです。
アメをガリガリとかんでしまう
かむという行為は、一定のリズムがある「リズム運動」と呼ばれる運動の一種で、セロトニンを分泌させ、気分をスッキリとさせる効果があります。アメをかんでしまうのは、脳がセロトニン不足の状態です。
リズム運動をして、なんとかセロトニンを分泌させようとしているサインかもしれません。アメだけでなく、氷をかんでしまうのも脳がセロトニンを必要としている状態だといえます。
アメをかんでいることに気づいたら、テンポよくウォーキングを行うなど、リズム運動を生活に取り入れてみましょう。
机が汚くなる
睡眠不足の状態では、脳の前頭葉がうまく働きません。前頭葉は考えを切り替えたり、複数の情報を処理したりする働きを担っていますが、その働きが鈍ることで、判断力が低下します。
睡眠不足の状態でAという仕事をやっているときにBを頼まれ、さらにCも…と割り込みが入ると、優先順位を判断できず、どれも中途半端に手元に置いてしまい、結果的に机周りが書類やモノであふれてしまいます。
睡眠負債
睡眠負債とは、「身体に蓄積した睡眠不足」のこと。睡眠負債を抱えている人は、睡眠が足りている人よりも生活習慣病や精神疾患の罹患率(病気の発生率)が上昇するほか、脳の機能も低下しやすくなります。
上記のような睡眠不足サインが表れている人は、睡眠負債がたまっている可能性があります。
睡眠負債を解消するには?
睡眠負債の解消には、足りない睡眠を補うことしかありません。ただし、「土日休みで週末に寝だめしてしまう」というパターンはNGです。
土曜日に寝だめをして昼頃に起床すると、夜に眠くならず就寝時間が後ろ倒しになり、日曜日の起床時刻が土曜日よりもさらに遅くなります。月曜日には、通常どおりの時間に起きなければいけないので、また睡眠不足の状態になります。
できるだけ平日に睡眠不足にならないように、規則正しい生活を送りましょう。
睡眠不足の解消法
睡眠不足に陥ってしまったときは、生活習慣を変えましょう。以下に、睡眠不足の対処法をパターン別にまとめました。
入眠に時間がかかる場合
眠るまでに時間がかかるのは、「眠れない」という不安やストレス、体内時計の乱れ、就寝前の暴飲暴食、運動不足などが原因です。
心地よく眠るために、寝る前の状態や環境を見直しましょう。
寝る前にリラックスタイムを設ける
仕事のことや学校のことなどを考え、脳が活性化すると、覚醒をつかさどる交感神経が活発になり、休息をつかさどる副交感神経が働かなくなって、身体も脳も眠る準備ができなくなります。
リラックスするには、ゆったりと落ち着いた音楽を聴くなどの方法があります。
寝酒を控える
お酒が好きな人は、寝る直前まで飲まないように注意しましょう。アルコールは寝付きをよくしますが、そのあとで睡眠の質を悪くしてしまうので結局は逆効果。
眠りたい時刻の3時間前までにはお酒を飲むのをやめ、アルコールが身体から抜けてから眠りましょう。
夜中に目が覚めてしまう場合
入眠後、目が覚めてしまう時は深く眠れていません。眠りが浅くなってしまう理由には、以下のようなものがあります。
眠る直前に食事をしない
眠る直前に食べ物を食べてしまうと、眠りに入ったあとも、胃の中に食べ物が残ったままになります。すると、消化のために身体が休まらず、眠りが浅くなってしまいます。
食べ物が消化されるまでには3時間ほどかかるので、夕食は就寝の3時間前までに済ませるようにしましょう。
眠る前に水分をとりすぎない
トイレに行きたくなって中途覚醒が起こる、というケースも多くみられます。1日の水分量を見直したり、昼間に多めにトイレに行ったり、眠る前のトイレを習慣づけたりといった対処法が有効です。
利尿作用のあるアルコールも、ただでさえ眠りを浅くする作用があるので、眠る前には控えるのが賢明です。