あなたはいつもどのような姿勢で寝ていますか?うつぶせだったり、あおむけだったり、人によってさまざまだと思いますが、寝るときの姿勢は眠りの質や身体に影響します。
今回はうつぶせで寝ることのメリットやデメリットについてまとめました。
うつぶせ寝とは、腹部を下にし、身体の前面をマットレスや布団につけて寝ることをいい、「腹臥位(ふくがい)」とも呼ばれます。
ちなみに、あおむけで寝ることは「仰臥位(ぎょうがい)」と呼びます。犬や猫をはじめ、多くの哺乳類(ほにゅうるい)は主にお腹を下にしてうつぶせで寝ます。哺乳類の中でも、あおむけになって寝るのは人間だけだといいます。
多くの人があおむけで寝るようになった理由には、2つの説があります。
1つ目は、昔から「あおむけ寝」は寝姿がきれいで行儀がよいとされ、お尻を上に向けて寝る「うつぶせ寝」は行儀が悪いと見られていたためです。行儀の良さが重んじられた結果、「眠るときはあおむけの姿勢をとるもの」という考えが定着していったと考えられます。
2つ目は、医療の観点から「あおむけ=安静」というイメージが強くなったといわれています。患者が病院へ搬送されるときに、あおむけの姿勢が十分に呼吸を確保するのに適していると考えられたためです。日常的な睡眠においても、「あおむけは身体にやさしい」というイメージにつながったと考えられます。
睡眠時に自然で身体に負担の少ない姿勢は「あおむけ寝」で、一方「うつぶせ寝」は苦しそう、というイメージをもっているかもしれません。しかし、「うつぶせ寝」は身体に負担が少ないといわれています。
なぜなら、人間は最も原始的な霊長類(れいちょうるい)とされる原猿類(げんえんるい)から進化したものであると考えられているため、原猿類の基本姿勢である「四つんばい」に最も近い「うつぶせ」は、自然な体勢といえるからです。
うつぶせ寝には、呼吸が楽になったり、血行不良を改善したりするなどさまざまなメリットがあります。
うつぶせの体勢をとると、胸が圧迫されることにより、自然と横隔膜(※)が下がり下腹がふくらみやすくなるため、「腹式呼吸」がしやすくなります。
息を吸ったときに胸がふくらみ、肩が上がる「胸式呼吸」に対し、息を吸ったときに肩が上がらず下腹がふくらむのが「腹式呼吸」です。起きている時は胸式呼吸をしていますが、眠っている時は腹式呼吸をしているため、うつぶせで寝ると自然な呼吸ができ、自律神経が整います。
※横隔膜(おうかくまく)…胸部と腹部のあいだにあるドーム状の呼吸運動を行う筋肉
また、うつぶせで寝ると、あおむけで寝ている時に起こりやすい「舌根沈下(ぜっこんちんか)」を防げます。舌根沈下とは、睡眠時に筋肉がゆるみ、舌の付け根(舌根)が重さで気道の入り口である咽頭(いんとう)に落ち、気道をふさいでしまうこと。
うつぶせで寝ると、空気の通り道である「気道」が確保され、呼吸しやすい状態になり、熟睡しやすくなります。同時に、気道が確保されることによって、いびきや睡眠時無呼吸症候群も防げます。
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呼吸がしやすくなると、酸素の吸収と二酸化炭素の排出がスムーズに行われるようになります。すると、血液中の酸素濃度の低下を抑えられ、血中の酸素量が不足して起こる疲労回復の遅れや老化の防止になります。
スムーズな呼吸ができず、血液中の酸素が不足すると、全身に酸素を運ぶ「赤血球」の量が増加します。すると、相対的に血液中の水分量が不足するので、血液がドロドロした状態になり、「血栓(けっせん)」と呼ばれる血のかたまりができる「血行不良」になりやすくなります。
うつぶせの体勢で寝て呼吸がスムーズに行われれば、血液中に十分な酸素が行きわたり、血行不良になりにくくなります。同時に、血行不良が原因で起こる「心筋梗塞(※)」などの病気の予防にもつながります。
※心筋梗塞…血管が血のかたまりによって詰まることで血液が十分に流れず、心臓の筋肉が壊死(えし)する病気
咳は、気道の表面に付着した病原菌などを含む粘膜の「痰」を出すために起こる反応です。うつぶせで寝ると気道内にたまっている粘液がスムーズに流れ、痰が排出されやすいため、咳をする回数が減ります。
うつぶせの姿勢をとると、筋肉がゆるみ、身体の痛みにつながる筋肉の緊張状態がほぐれるため、肩こりや腰痛が和らぎます。
身体にさまざまなメリットを与える「うつぶせ寝」ですが、一方で下記のようなデメリットも存在します。苦しかったり不調の症状が出たりしたら、症状に合った対処をしましょう。
夜遅くまで仕事をしていたり、眠る直前までパソコンやスマートフォンを見たりすることで、目覚めをつかさどる「交感神経」が優位になってしまいます。
この状態で眠りに入ると、眠っている時も「腹式呼吸」に切り替わらず、起きている時と同じ「胸式呼吸」を続けてしまいます。すると、胸が圧迫され息苦しくなり、眠りに支障をきたす可能性があります。
息苦しくて眠れないときは、うつぶせではなく半うつぶせで寝ると、胸部の圧迫を軽減し、息苦しさを抑えられます。半うつぶせ寝とは、身体の片側が少し浮いており、おへそがやや下を向いている状態で寝ることをいいます。
うつぶせで寝ているときに枕などで口や鼻がおおわれると、呼吸がしづらくなり、酸素不足の原因になります。
呼吸を確保するために、うつぶせで寝るときは顔を横に向けましょう。向きは左右どちらでも問題ありません。自分が楽だと感じる方向に首を曲げましょう。特に赤ちゃんのうつぶせ寝は、窒息や突然死のリスクが高くなりますので注意が必要です。
食後すぐにうつぶせで寝ると、腹部を圧迫されることで、吐き気や嘔吐をもよおす可能性があります。
胃の中で食べ物が消化されるには、通常2〜3時間かかります。そのため、就寝する2〜3時間前から食事を控えるようにしましょう。
汚れている枕に顔を当てることで、ニキビを刺激してしまい、炎症を悪化させることがあります。
枕やシーツなど顔に触れるものは、こまめに清潔なものに取り替えましょう。
脱臼しやすい人が腕を高い位置に置きうつぶせで寝ると、肩が開きすぎて脱臼する恐れがあります。
腕は横に伸ばす、または身体の横にだらりと下げるなどをし、肩に負担がかからないように気をつけましょう。
骨の密度が低い人がうつぶせで寝ると、普段あまり使わない関節や骨に負荷がかかり、骨折することがあります。
骨折しやすい人は、骨に多数の細い穴「鬆(そ)」ができて骨の密度が低下し、骨がもろくなっている「骨粗鬆症(※)」の恐れがあります。うつぶせ寝を取り入れたい場合は、整形外科などの専門医に相談してから行いましょう。
※骨粗鬆症(こつそしょうしょう)…骨の強度が低下して、骨折するリスクが大きくなる病気
前述した「うつぶせ寝」のメリットを得るためには、正しい「うつぶせ寝」の姿勢をとる必要があります。以下にうつぶせで寝るときのポイントをまとめました。
枕に顔をうずめるのではなく、左右どちらか自分が楽なほうに向けましょう。
腕は自分が「ちょうどよい」と感じるところに置きましょう。ただし、身体の下に入れると、睡眠中にしびれて眠りが浅くなり、睡眠中に目が覚めてしまうので避けてください。
顔を向けた方向に脚のひざを曲げるか、もしくは自然に伸ばしましょう。
寝るときに鎖骨の下や、すねの全面に薄手のクッションなどを敷くと、身体が安定して心地よく眠れます。
うつぶせ寝と同様、左右どちらかの自分が楽なほうに向けましょう。
上を向いているほうの腕は上にし、身体の下側にある腕は圧迫しないよう、少し身体の後ろ側にずらしましょう。
上を向いているほうの脚は、ひざを曲げるか枕やクッションの上に置き、下側になる脚は自然に伸ばしましょう。
半うつぶせは身体がマットレスに触れる面積がうつぶせより少なく、不安定になりやすい姿勢。そのため身体とマットレスの隙間を埋めるように、抱きまくらやクッションを抱えると体勢が安定し、心地よく眠れます。
「乳幼児突然死症候群」(SIDS=Sudden Infant Death Syndrome)は、赤ちゃんが突然死してしまう病気です。原因は不明ですが、一説にはうつぶせで寝ることが原因だといわれています。
乳児は自分自身で身体を動かしづらいため、うつぶせで寝ることによって枕に顔がうまっても対処できず、窒息することがあります。しかし、乳幼児突然死症候群や窒息死はあおむけでも起こりうることなので、うつぶせ寝が原因だとは言い切れません。
「赤ちゃんがうつぶせでないと寝てくれない」ときは、以下のポイントに気をつけて寝かせましょう。
柔らかすぎる素材の上だと、自分で身体を動かしづらく、口や鼻が寝具にうまって窒息する恐れがあります。枕やマットレスは硬めの素材にしましょう。
大人が常に見守ることで、赤ちゃんの異変に気づき、思わぬ事故を未然に防げます。うつぶせで寝かせるのが不安な人は、様子を見ながら、状況に応じて赤ちゃんの顔が見えやすいあおむけの姿勢に変えましょう。赤ちゃんを寝かせるときは、細心の注意を払うことが大事です。
睡眠は赤ちゃんがすくすくと成長するためには欠かせない要素なので、安全な眠りの環境をつくってあげましょう。
<参照>
「看護に生かす腹臥位療法 うつぶせ寝で『身体と心』を取り戻す」監修:日野原重明(日本看護協会出版会)
「うつぶせ寝健康法:日野原先生も毎日実践!」監修:日野原重明(ベストセラーズ)
「人体のしくみと病気がわかる辞典」監修:奈良信雄(西東社)
「看護に生かす腹臥位療法 うつぶせ寝で『身体と心』を取り戻す」監修:日野原重明(日本看護協会出版会)
「うつぶせ寝健康法:日野原先生も毎日実践!」監修:日野原重明(KKベストセラーズ)
厚生労働省
photo:Getty Images
医師・医学博士
坪田 聡
医師として睡眠障害の予防・治療に携わる一方で、睡眠改善に特化したビジネス・コーチとしても活躍中。「快適で健康な生活を送ろう」というコンセプトのもと、医学と行動計画の両面から睡眠の質を向上させるための指導や普及に尽力。総合情報サイトAll about 睡眠ガイド。 「睡眠専門医が教える! 一瞬で眠りにつく方法」(TJMOOK 宝島社)、「パワーナップ仮眠法」(フォレスト出版)他、監修・著書多数。
医療法人社団 明寿会 雨晴クリニック 副院長
Site: http://suiminguide.hatenablog.com/
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